素晴らしさの発見
身勝手な妻
まちづくりであちこちを飛び回っていると、時に感動的な出会いがあります。東北のある町でヘアーサロンを経営しているIさんもそのひとりです。Iさんは商店街の役員をやっていましたが、お店の経営がうまくいかないことに不安を感じていました。しかし、お店の経営もさることながら、むしろ奥様との関係がだんだん悪化していくことの方が悩みでした。私はそのころIさんと出会い、相談を受けたのです。 「妻が自分勝手で、ちっとも私の言うことを聞いてくれないのです。その妻を変える何か良い方法はないでしょうか」という相談です。しばらくいろいろな愚痴を言っていましたが、聞いていると、どうも一方的に「妻が悪い、妻が悪い」というふうにしか聞こえません。そこで、私は言いました、「どうも一方的に過ぎるように思います。でも、じつはあなたのほうが、奥様に対して感謝ができていないのだと思います」「感謝だったら、妻よりも私のほうができていると思いますよ」「それは、あなたの勝手な思い込みなんです。だいたい、みんな自分は感謝ができていると思っていますが、本当は見過ごしていることの方が多いのです。だから、感謝できることを探してみるといいですね。ノートに書いていくといいですよ。とくに奥様の素晴らしいところを、『素晴らしさの発見ノート』を作って書いてみたらどうでしょうか」。 Iさんは必死だったのでしょう。2時間ほどの私とのやり取りを真剣に受け止めていました。「誰にも見せるわけでもありませんから、恥ずかしいと思うようなことでもいいから、書いてみたらどうでしょう」という私の言葉で、少し安心したようです。
それから一ヶ月ほどして、またその町に行く機会があり、Iさんに再会しました。以下は、そのときにIさんが渡してくれた手紙です。
素晴らしさの発見ノート
私は、『素晴らしさの発見ノート』を2種類つくりました。ひとつは『お店のお客様の素晴らしさの発見ノート』、もうひとつは『家族の素晴らしさの発見ノート』です。まずは家族の素晴らしさの発見として、妻のよいところの発見から始めました。朝5時半に目が覚め、頭がすっきりした状態でノートを開き、テーマを「お母さんのよいところの発見」と決めて、日常の生活を思い出しながらゆっくりとノートに書いていきました。後から見たらたった9つでしたが。
1.毎朝5時に起きて朝食の用意をし、子供たちのお弁当を作り、洗濯をしてくれるお母さんは本当に
ありがたいお母さんです。
2.私よりも2時間も早く起きるお母さんは本当に素晴らしいお母さんです。感謝いたします。
3.お母さんはチャーミングなところがあり、そこが若さの秘訣のようです。
4.子供たちのために一生懸命に勉強を教えたので、子供たちが素晴らしい成果を発揮しており、素
晴らしいお母さんです。
5.家族のために裁縫ができるお母さんは、家庭の便利さと潤いをもたらし、素晴らしいお母さんで
す。
6.お店のお父さんの手伝いをして、家計を助けてくれるお母さん、本当にありがとうございます。
7.いつも布団をきちんと敷き、気持ちよい状態にしてくださっているお母さん、ありがとうございま
す。
8.子供たちに家の手伝いをさせ、買い物をさせ、子供たちの独立心を養う躾をしているお母さんは
素晴らしい才能の持ち主です。本当に素晴らしいです。おかげさまで素晴らしい子供たちに成長
しています、ありがとうお母さん。
9.ここまで書いてきたら、お母さんの欠点が気にならなくなり、その欠点を許せる気持ちになりま
した。
ノートをここまで書いたら、眠くなったのでまた眠りました。
妻の変化、お店の変化
目が覚めてから、その日は何事もなく、いつものように時間が過ぎていきました。やがてお店の閉店時間が来たとき、私は「あれっ」と思いました。お母さんがお店の掃除を始めたのです。今まで何十回と「お店の掃除は夜にやろう」と言ってきましたが、お母さんは朝方のタイプで、夜型のタイプの私には協力してくれませんでした。このわがヘアーサロンの経営方針がひとつにまとまらないと、今まで何年と思い続けてきたことか。しょうがないとあきらめ、耐え忍んできたのです。
ところが、この「素晴らしさの発見ノート」を書いたその日にお母さんが変化したのです。本当にごく自然に私に協力するようになったのです。掃除以外にもいろいろと協力的になったのです。私にとってこれは奇跡です。本当に奇跡です。10数年あきらめ、耐え忍んできた夫婦別々の心がひとつになったのです。お母さんが私の「素晴らしさの発見ノート」を見て、うれしくなって変わってくれたのかと思ってそれとなく聞いてみても、ノートは見ていないようです。
不思議なことに、この日を境にしてお客様が増え始めたのです、しばらく見えなかった方が急に来てくださったり、初めてのお客様が来てくださったりで、急に忙しくなりだしたのです。
自分の見方次第
仏教の唯識派に次のような話があります。
あの世の川は、地獄の亡者が見ると、炎の川に見えたり、血の川にみえたりしますが、普通の人が見ると普通の川に見えます。また、魚が見ると自分のすみかに見える。ところがこの川は、あの世の天使が見ると、水晶の川に見えたり、ダイヤモンドの川に見えたりするのです。これを唯識派では「一水四見(いっすいしけん)」と言っています。要するに、あの世の川は見る人の立場によって、四つの見え方があるというものです。
ところで、今のヘアーサロンの話を聞きますと、この世の現実も見る人の心によって、どうにでも変わるようです。嫌な人だなと思って見ると嫌な人が現れ、素晴らしい人だなと思って見ると素晴らしい人が現れる。家庭であれ、職場であれ、人間関係を良くするも悪くするも、この自分の「見方」一つです。 このような心理を小説にしたのが、『少女パレアナ』(角川文庫)です。一人の孤児パレアナが、生前の父親との約束で、どんな逆境からも喜びの種を見出し、それを実践していく。その結果、自分をいじめる伯母さんを善人に変え、悲観的な伯父さんに希望を与え、まわりの人を喜びあふれる人に変え、町じゅうの人を幸福にするという児童小説です。 つねに積極的に素晴らしさを発見しようとする心。どんな逆境からも喜びの種を見出そうとする心。それがユートピアの秘訣です。商売繁盛の秘訣です。それは、「そうなりたい」「そうしよう」という強い、強い決意があれば可能なのです。
このような体験をしたIさんは、自分の心の持ち方に自信を持ち始めました。結果、商店街の役員の中でも先導的な役割を担うことになっていったのです。Iさんの姿は誰の目にも明らかに輝き始めたからです。
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