元気なお店の条件
地方都市の中心商店街の衰退
地方都市の中心商店街の衰退が話題となって久しくなります。やれ、シャッター通りになってしまった、やれ、居住者が郊外に移転して人口が減ってしまった、しかも、買いたい物がない、魅力がない。その根源は、巨大な駐車場を抱えた郊外の大ショッピングセンターのせいだとしばしば指摘されます。
では、便利なショッピングセンターをなくせば、中心市街地に賑わいが戻るかというと、そう簡単ではありません。衰退しているほとんどの商店街は居住者減少、お店も後継者難、高齢化、無気力化しているからです。
そういう状況の中でも、全国的に見て、がんばっている商店街がいくつもありますが、それらは明らかに理由があります。後継者がいる、世代交代がうまくいっている、やる気満々の店長がいる、そういったお店がいくつも存在しているのです。だから、基本は、個々のお店のやる気次第。そのようなお店を核として、商店街の活性化が可能になるのです。商店街活性化の基本は、個々のお店が強くなること、やる気を出すこと、これ以外にはありません。
お宅のルルはよく効く
東北・青森県のある市にY薬局という、知る人ぞ知る薬屋さんがあります。外見は何の変哲もないごく普通の薬屋さんですが、このお店は多くの固定客を抱えていて繁盛しています。全体的に淋しい商店街の一角にあるのですが、「お宅のピップエレキバンはよく効く」といって、2?3軒の薬屋さんを通り越してわざわざY薬局に足を運ぶお客さんもいれば、「お宅のルルはよく効く」といって、大ビンのルルを数箱まとめ買いしていくお客さんもいます。こういう熱烈な固定客が何人もいてこのY薬局は大繁盛なのです。これは何か秘訣がありそうだということで、取材に行ったことがあります。お店は、Yさんご夫妻とYさんのご両親で経営しているお店です。「何かきっかけがあるのでしょうね」という、Yさん(奥様)への、私の問いかけから始まりました。
商売繁盛のきっかけ
「2年前の夏のことでした。急に父の具合が悪くなって、日に日に衰えていったのです。お店番をしている後ろ姿を見ても、とても小さくなってしまい、はーはー、ぜーぜーと苦しそうで、もしかしたら、このままあちらの世界に逝ってしまうのではないかと心配になりました」。
「ある夜、やさしかった父のことを思い出しながら、過去を振り返っていると『はっ!』と気づくことがあったのです。いつもはお店に来るお客様に対して『体を治すには、心の持ち方も大切ですよ。あまり自分のことばかり考え過ぎないで、まわりの人のことも考えるようにしましょう』といってきた張本人の自分が、いまは自分のことしか考えられなくなっている。ただただ『早く父に治ってほしい、早く父に治ってほしい』と、そればかりを考えている自分に気づいたのです。
しかも自分の心の底をじっと見つめてみると、本当に父の病気を心配しているのではなかったのです。本当は父がいなくなるとお店に出る回数が増えて私が困るから、という理由で父の病気の心配をしていたのでした。身勝手な都合のいい自分がいたのです。これではいけないと、その翌日から、私は自分の思いを切替えました。お店に来るお客様というお客様に対して『苦しい時ほど、他人のことを考えるようにしましょうね』『治りたい、治りたいと執着するより、心を解き放って他人のことに関心を向けたほうがいいですよ』などと心をこめてアドバイスしました。手がはれて痛いという人が来ればその人の手を両手で抱え込んでさすってあげたり、また悲観的になっている人がいれば、心のもち方の大切さを書いたパンフレットを紙袋の中に入れて差し上げたりもました。また薬の卸問屋さんにも電話して、自分の思いの変化を伝えていきました」。
家庭調和が商売繁盛の源泉
ちょうど同じ頃、お父さんのことを心配したYさんのお母さんもまた、自分の夫に対して感謝が足りなかったことに気づいて、深く反省していたといいます。Yさんの気づきと、Yさんのお母さんの気づきと両方が相乗効果をもたらしたのでしょう。 数日して、気づいてみると、Yさんのお父さんはもとの元気ではつらつとした姿に戻っていたのです。再び冗談もよく出るようになったのです。
その直後、薬局の一日の売上が過去最高を記録したのでした。Yさんは言いました「家庭調和というのは豊かさの源泉ですね」。確かに「家庭調和」というのは、個人営業や家族営業のような形態の場合にはとくに重要な要素です。 だから、その後も売上は順調に伸びつづけたのです。
県外からの注文
1?2ヶ月経ったころ、県外からも電話で注文がくるようになりました。「どこでうちのことを聞かれましたか」と尋ねると、「福島のAさんの紹介で」という方が何人もいたのです。Aさんというのは、肺に水が溜まる病気で、あちこちの病院に行っても治らず、ワラにもすがる思いでYさんのところに電話をしてきた人でした。なんの薬も効かず、家でただ寝ているだけという人でしたが、たまたま病状をよく聞いてAさんの症状に見合った薬を、漢方を中心にして調合し、また自然治癒力を高めるための薬も一緒に入れて差しあげたのです。
そのAさん、病院から見放されて寝込んでいたのが、2週間で立ち上がり、3週間で買い物に出かけるようになり、1ヶ月したらスキーにまで行けるようになったのです。驚いたのは近所の人たちです。「どうして良くなったの?」と聞いてくる人たちに対する答えは、ただひとこと。「Y薬局の薬で治ったの」。それが口コミで伝わって、あちこちから電話注文が来るようになったのでした。
バスツアーで来店
さらに驚くべきことが起こりました。ある地方銀行の新潟支店が、社員旅行の東北バスツアーの帰りに、バスごとYさんのお店に立ち寄って、みんなそれぞれ大量に薬を買い込んで行ったのでした。もちろん一人一人の健康状態を、Yさんは順番に聞いて対応していったのです。バスツアーのスケジュールの中には、その薬局での健康相談の時間も取ってあったからです。
このように、衰退する商店街の中にあっても、Y薬局のように強烈に光を放っているお店があるのです。
念いがすべて
松下電器創業者の松下幸之助氏も書いています。昭和初期の不況で物が売れなくて困っている時に、松下の製品を売るために必死の努力をしたこと。松下の製品には、工場の工員たちの誠実な「念い」が込められ、また国民みんなに豊かになってほしいという販売店の強い願いが込められていたので、他社に負けずに売上が伸びてその不況を乗り切ったこと。そして製品は単なる物ではなく、作る人や売る人の「念い」が製品と一緒に伝わっていくのだということを実感したということ等。このようなことを松下氏は書いています。(『私の行き方 考え方』PHP文庫)
結局、モノをつくるにしても、モノを売るにしても、「念い」が大切だということです。ビジネスをするにはどういう念いで取り組むのかが問われるわけです。心の底から相手の顧客のことを考えているのか、単なるテクニックだけの顧客満足なのか。その波動は、明らかに商品と共にお客様に伝わっているということです。だから、やはり根本は自分に帰ってきます。「自分の心の奥底にいかなる念いがあるのか」ということです。相手の幸せを願う心、「利他の念い」こそ大切にしなければなりません。
ところが、世の中のほとんどの企業がこういう「お客様のために」とか、「顧客満足」という理念を掲げているのに、その結果は同じではありません。同じようなポリシーを掲げつつも、売り上げが伸びない会社や利益が出せない会社は山ほどあります。なぜでしょうか。
結果がすべてを物語っているという観点で言えば、その「念い」は『ニセモノ』である、あるいは『うわべである』、といわざるを得ません。
顧客満足を看板に掲げつつ、賞味期限を偽ったり、経理をごまかしたりして一時的に利益を上げることはできるでしょう。しかし、そういう『ニセモノの念い』はいつかは必ず露呈していくものです。○○乳業、○○スン、○○VA、等はそのことを物語っています。
だから、「念い」がどこまで純粋かが問われるわけです。「利他の念い」が純粋であればあるほど、それは必ず正しい行動に繋がります、ビジネスや社会の発展・繁栄につながります。まち起こしも、ものづくりも、サービスも基本は同じです。Y薬局は、その「念い」の大切さを、じつに明確に教えてくれました。
「動機善なりや、私心なかりしか」、これは『京セラ』創業者の稲盛和夫氏の言葉です。
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